NAOKI FUKUDAs' Memorial Photos

『A-SIGN BOXING』のオフィシャル・フォトグラファーの福田 直樹さんによるコラム
『NAOKI FUKUDAs' Memorial Photos』

*福田直樹
`88年よりボクシング専門誌の編集にライターとして携わり、2001年に渡米。カメラマンに転向。
以後はラスベガスに拠点に置き、全米で年間約400試合を撮影し続けた。『パンチを予見する男』とも称され、『全米ボクシング記者協会』主催の年間賞において、”最優秀写真賞”を4度受賞。
`16年に帰国。現在は日本ボクシングを世界各地へ発信する。

 

オンラインサロンでは隔週で福田さんにコラムを執筆いただいています。
第1回はこちらでも公開させていただいています。
 
7月9日
NAOKI FUKUDAs' Memorial Photos
#1.夏のビアーと、冬の血と[前編]

 
 少し不謹慎かもしれないが、新型コロナ禍による自粛中にふと思い出したのがこの一枚だ。2013年8月にロサンゼルス郊外カーソンのスタブハブ・センターで開催されたWBC世界フェザー級タイトルマッチ。圧倒的に不利と言われていたジョニー・ゴンサレスが、王者アブネル・マレスを番狂わせの初回KOで破った直後、勝者に向かって”飲みかけ”の『コロナ・ビール』が投げつけられた場面である。

 晩夏の野外会場で行われた一戦は、いわゆるメキシカン対決だった。飛んできたのがメキシコのビールというのも、ある意味で同カードにふさわしかったが、地元カリフォルニアで活動しているマレスの支持者にとって、祖国に住むゴンサレスはあくまでも”よそ者”だったのだろう。

 考えてみると、米国では基本的に試合場への缶・瓶類の持参は厳禁だ。入場ゲートのセキュリティーチェックをかい潜って、なんとか持ち込んだ缶ビールだったに違いない。マナーやモラルの点で大いに問題はあるのだが、それをほとんど中身が入ったまま投げ込んだことからも、マレス・ファンの失望のほどが分かる。

 試合の終わり方は、確かに衝撃的であった。撮影していた時は単にマレスの油断による被弾かと思っていたが、あとで録画のスローを確認して、1度目のダウンシーンに改めて見入ってしまった記憶もある。
 決め手となったのは、左ボディブローを打つと見せかけての、上への左フックだった。直前にはジャブを放つかのような踏み込みも交えていた。この日のジョニゴンは、立ち上がりからいつも以上に左ジャブを突いていたが、それも伏線になっていたようだ。その二重のフェイントに引っかかったマレスが、思わず右ガードを下げたところに、ゴンサレスの強打がものの見事に命中したのだ。

 顎を痛打され、たまらずダウンしたマレスはカウント6で立ち上がったものの、すでに勝負は決まっていた。再開直後の2度目のダウンで試合はストップ。写真のコロナ・エクストラ(ロング缶)は、大喜びのゴンサレスがセコンドに肩車された場面で視界に飛び込んできた。ゴンサレスは難なくかわしたが、背後にいたマレスの応援団がいきなり投げ入れたので、エプロンに立っていた私自身は不意打ちを食らい、カメラを構えたまま全身ビールだらけになってしまった。着ていたシャツも酷い状態になっていたから、ホテルへの帰り道にもし警察の検問を受けていたら、間違いなく飲酒運転を疑われていたと思う。
■2013年8月24日 米国・ロサンゼルス・スタブハブ・センター
 WBC世界フェザー級タイトルマッチ
王者:アブネル・マレス(米=メキシコ)
vs
挑戦者:ジョニー・ゴンザレス(メキシコ)

 

7月10日

NAOKI FUKUDAs' Memorial Photos

#1.夏のビアーと、冬の血と[後編]


 この(前編)ビールの時と事情は違うが、書いている途中で別の試合の記憶が重なってきたので、自分的には似ていると思う話をもう一つ。今度は2013年1月にニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデン・シアターで行われたWBA世界ミドル級タイトルマッチ、ゲンナディ・ゴロフキン対ガブリエル・ロサド戦の際のことだ。この夜はビールではなく、リングサイドでファイターの鮮血をこれ以上ないほどに浴びる結果になった。

 米国2戦目のゴロフキンを撮影するのはそれが初めてだったが、開始直後にまず感じたのはリングサイドに伝わってくるパンチの衝撃波が、他のトップ選手と明らかに違うという点だ。重くて、すごく硬いイメージといえばいいのだろうか。何気なく伸ばしているジャブひとつをとっても、恐ろしいほどのインパクトで対戦者の顔面を弾いていく。

 のちに映画『クリード』に出演するロサドは、2回にそのハードパンチで左目をカット。ゴロフキンの攻撃がラウンドを追うごとに加速し、挑戦者の出血もその度に厳しさを増し続けた。撮影に夢中になっていて分からなかったのだが、インターバル中に隣のカメラマンに指摘されて、自分の顔と腕、シャツとメガネが血だらけになっているのに気づいた。そう言う隣の同業者も、同じような有様になっている。大量の出血を見せるロサドが、目の前のロープに詰まるシーンが多かったから、そんな状態になったのだろう。競技の最も近くでファインダーを覗き、ファイターたちの凄さ、試合の熱を直に体感しながらベストショットを狙い続けるのは、ボクシングを撮るうえでの大きな醍醐味だ。しかし、それにしてもこの一戦は激し過ぎたと思う。

 タフなロサドは血まみれの体で必死にダウンを拒んでいたが、相手が相手だけに限界があった。7回、写真の右が決まると同時に、コーナーがタオルを投げ入れて凄惨なファイトが終了。手前味噌になってしまうが、このショットで同年度のBWAA(全米ボクシング記者協会)フォトアワード/アクション部門の佳作賞を頂けたという意味でも、忘れられない取材になった。
 マンハッタンに出張する際はレンタカーを借りないことにしていたので、同夜のホテルへの帰りは、地下鉄か歩きしかなかった。試合後に顔や手の血を洗い落とす間がなく、上着があるだけでシャツの着替えも持ってきていない。地下鉄を諦め、”事件”を起こしてきたかのような姿で人混みを歩きながら、どうにか部屋に逃げ帰ったのも、考えようによっては面白い経験だった。

■2013年1月19日
 米国・ニューヨーク・マジソン・スクエア・ガーデン・シアター
王者:ゲンナジー"GGG"ゴロフキン(カザフスタン)
vs
挑戦者:ガブリエル・ロサド(プエルトリコ)

7月21日

NAOKI FUKUDAs' Memorial Photos

#2.表紙に選んだ理由