海外ファイトの経験を生かす

 私たちが普段生活している場ってーのは、だいたいのところ、限られた空間の中ってことになっちゃいますよね。“テリトリー”っていいますか、行動範囲っつったらわかりやすいのか。家→学校(会社)→家、とか、家→買い物→家、とか。で、その合間に、ちょっとした“お出かけ”があったりする程度。慣れ親しんだ行動が、生活のリズムというものになる。

 それでも、学生だったら修学旅行とか、会社員だったら出張とか、「いつもと違う場所」へ行くこともちょいちょい挟まってくる。となると当然、生活のリズムが変わり、体調にも若干の変化が生じたりするわけです。変な話、便秘になったりだとか、食欲がなくなったりだとか、いちばんは常に妙な緊張感を持ち続けたり、とか。
そんな経験は誰でもひとつやふたつ、したことがあると思います。

……って、こんな話から入ったのにはもちろんわけがありまして。ここ数年、日本人選手の海外試合が増えてるっつーことを話したいと思いまして。みなさんボクシングファンの方も、それはもちろん感じてますよね。特に今年に入ってからは、ものすごい勢いで、海外に出ていく選手が増加してる。しかも、ボクシングの本場といわれるアメリカへ。ざっと挙げるだけでも、次のとおりなのです。

1月18日 アメリカ・ニューヨーク州ニューヨーク
マディソン・スクエアガーデン・シアター
IBF世界スーパーバンタム級タイトルマッチ
高橋竜平(横浜光)

1月26日 アメリカ・テキサス州ヒューストン
トヨタ・アリーナ
IBF世界スーパーウェルター級タイトルマッチ
井上岳志(ワールドスポーツ)

2月10日 アメリカ・カリフォルニア州フレズノ
セーブマート・アリーナ
岡田博喜(角海老宝石)

2月16日 アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス
マイクロソフト・シアター
IBF世界スーパーバンタム級挑戦者決定戦
岩佐亮佑(セレス)

3月30日 アメリカ・ペンシルバニア州フィラデルフィア
2300アリーナ
IBF世界ウェルター級挑戦者決定戦
小原佳太(三迫)

 いきなり1発目から、“ボクシングの殿堂”、世界中の誰もが憧れるMSG登場ですから、まったくびっくりなのでありますが、それから毎月のように、サムライたちは渡米し、戦っている。しかも、国内のトップ選手たちが、重要な試合で。

「時代は変わりましたなぁ」「すごい世の中ですなぁ」なんてことをただたんに申し上げるつもりはありません。もちろん重要な試合ですから、当然相手は強い。世界チャンピオンや、それと同等の選手ばかりですから、結果はなかなかついてこない。上記の選手では、岩佐が勝っただけ。だからって、「日本人は弱い」なんてことも言うつもりは毛頭ありません。だって、ここ数年でも井上尚弥(大橋)や伊藤雅雪が、ちょっと前だと亀海喜寛(帝拳)や三浦隆司(帝拳)が堂々と勝ち名乗りを受けてきたんですからね。

 今回、私が言いたいのは、「環境の変化を肌で感じること」の尊さです。

 われわれ一般人だって、遊び目的で海外に行ったり、普段の生活圏外に足を運んだりするだけで、体の変化を起こしてしまうわけです。それが、「戦う」という仕事になれば、もっともっと変調をきたしてしまってもおかしくない。食事も違う、言葉も違う、周りにいる人間だって、全然違う。普通にしてたって、デッカイ外国人が数人いるだけでもプレッシャーはかかるでしょ。
 それに加えて、移動やらタイムスケジュールやら、試合までの何もかもが国内にいるときとはまるっきり異なってくる。ちょっと想像をめぐらしてみたって、そりゃいつもと全然違うのはわかるでしょう。平常心で臨め! って、そんなのはどだい無理な話。「平常心じゃない自分といかにうまく付き合うか」が大事でしょう。

 試合での経験はもちろん貴重です。でも、それだけじゃなく、そこに向けてのすべてのことを大切にしてほしい。日本を発つまでの準備、飛行機での移動から、結果はどうあれ、無事に帰国して、また普段の生活に戻るまで、そのすべてを。その場面場面で、どんな心境だったのか、どんなことがうまくいったのか、うまくいかなかったのか。選手一人ひとりが、自分にしか味わえないものを感じたはずですから。

 そしてこれはもちろん、ボクサーだけのことではありません。同行したジムのスタッフたち一人ひとりも同様です。スタッフには、また別の意義があったはずです。海外の、試合に向けてのシステムだとか、試合を運営・管理する人々の振る舞いとか、相手選手やそのほかの選手たちを支えるスタッフの行動とかを“見る”っていうこと。試合中、戦っている相手のセコンドの動きをつぶさに観察することも。止血や腫れ止めなど、“不測の事態”にどう対処しているかとか。そういう、選手を支える行為については、アメリカは日本の先を行っているとよく言われますが、「いや、こっちのほうが先端を行ってる」ってことだってあるかもしれません。だったら、「オレたちのやってきたことは間違ってない」って確認できたことだけでも、それは得がたい貴重な経験でしょう。

 アメリカで戦いました、勝ちました、負けました、で終わらせてはいけないと思うのです。普段できないことをしてきたわけですから、選手もスタッフも、どんな些細なことでもいいから、何かを持ち帰ってきていてほしいんです。もちろん、これはアメリカに限ったことではありません。最近特に増加している中国やタイなどでの遠征の際も同じこと。

「見たこと」「感じたこと」を大切にして、何年後なのかわからないけれど、その経験をなんらかに生かしてほしい、いや生かさなきゃいけないと思うのです。

 今後も、海外ファイトは続くでしょう。その一つひとつに動く、選手、スタッフたちの“経験”が、どんどん積み重なって広まっていく。それを実感できる日が来るのを楽しみに待ってますね。

1月18日 ニューヨークでの世界戦に密着!

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