あの笑顔に騙されるな!〜拳四朗〜

 まったく危なげなく、一方的に相手を痛めつけて自分はかすり傷ひとつ負わずに試合を終えてしまいましたねー……って、これ、井上尚弥(大橋)じゃなくって、拳四朗(BMB)のことですよ。

 井上尚弥の衝撃KOに、「すっかり持っていかれてしまいました」なんて拳四朗苦笑いしておりましたが、どうしてどうして! あのミラン・メリンド(フィリピン)に何もさせずにやっつけてしまったんだから、堂々の勝利です。

 これで、3試合連続で井上尚弥との共演。しかもふたりはともに3試合ともKO勝利ですな。
「井上が凄すぎて、いつも一緒で拳四朗が気の毒だ」ってほとんどの人が声を上げとりますが、いやいやこれって実は逆なんじゃないかな。つまり、いい刺激を受けてるってこと。

 この拳四朗、あのとおりのキャラでしかも童顔。まったくもってボクサーらしからぬイデタチで、話してもどこまでが本音でどこからが“装い”なのか定かではありません。ふわーりふわりとしていてつかみどころがない。

 以前、あれはたしか世界チャンピオンになってまもなくだったか、三迫ジムに練習しに来ていた拳四朗に会ったとき、「他の選手はどんな練習をしているんですか?」って逆に質問をされたんです。“パパ”が会長のBMBジムは京都にあるけれど、「スパーリング相手がいない」って本人もこぼしているとおり、練習環境は決して恵まれていない。そういえば同じことを田中恒成(畑中)にも訊かれたことがあります。やっぱり、彼らのようなチャンピオンでも、東京や大阪のように選手層の厚い地域にいないと、苦労するんですね。

 で、そこで私が答えたのは井上尚弥の“意識”。そのとき拳四朗はサンドバッグを打っていたので、「井上尚弥くんは、サンドバッグを打つときも、必ず打ったらガードをしっかり戻すし、必ずステップバックを入れてるんだよ。あと、打つ前も打った後も、決して集中力を切らさない。打ってないときに“抜く”選手が多いけど、それは彼にはない」って。そうしたら、拳四朗は真剣な眼差しで「へー」とか「はー」とか相槌を打ちながら、すぐにそれを取り入れて打ち出したんですよ。特に打った後のステップバックは、「こんな感じですか?」なんつって。もうね、パッとできちゃうところがまたスゴイんですが。

 …って、そのとき彼はすでに世界チャンピオンですよ! そんな男が、わけのわからない記者の言葉をスッと受け入れて、即座に実演してみせる。しかも、そんな技術、意識を知らないはずがないんだけど。いや、本当に感心して受け入れたんだとしたら、それはそれでまたスゴイことだと思うし、この先のノビシロは、どんだけあるんじゃ〜!って感じ。
 いやはや、とにもかくにも、この“素直さ”が、彼の強みなんじゃないかと。

 でもね、そのときすでに披露してたし、もっと言ったら、デビュー3戦目で巧者・長嶺克則(マナベ)を破った試合あたりから見せてた「バランスの良さ」は、拳四朗のボクシングの屋台骨であることは間違いない。なんて表現したらいいんだろう。ちょっと変な言い方だけれど、「バランスボールに乗っかっている」、いや「バランスボールを両足の間に挟んでる」ような感じ? つまり、体の中心に常にバランスがあるんですね。広いスタンスを常に保ち、その幅がほとんど崩れない。打っても退いてもバランスは必ず中心に戻る、というか前足にウェイトを乗せすぎず、かといって後ろ足にも乗せない。で、スタンスが広いから、相手は「届かない」って思う距離でも届かせるし、相手が打ちに行くと懐が異様に深いんです。

 拳四朗に、そんな感じの言葉をぶつけてみたら、本人はいまいち自分の特性をわかってないような口ぶりで……(笑)。それが本気なんだか、実はごまかしてるのかこっちはまったくわからない。なんとも不思議な選手であります。

 しかし、これだけは断じて言えます。

「あの笑顔に騙されちゃいかん!(笑)」

 メリンドの目の上の古傷、しっかり狙ってましたよね。
かわいい顔して、当然、勝負根性は凄まじいものがあるんですな。

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